ここは山奥にひっそりと佇む穴場のカフェ
看板もなく
ちゃんと営業しているのかもあやしい
宣伝などもいっさいしていないのでそもそもどうやってたどり着くのかすら謎なカフェである
私はたまたまここのマスターと知り合いの為に知っているので時折
コーヒーが飲みたくなった時にふらっと立ち寄ることにしている
今日がたまたまその日だったのだ
駐車場へ車をとめ、件のツリーカフェを見上げた
冬の青空を背景に二つの異様な建物が目に入る
一つはツリーテラスになっておりとても見晴がよさそうだ
この時期は利用するのがきびしそうだが晴れた風のない日なら
楽しむことが出来るかもしれない
右手の建物がツリーハウスになっていてこちらは店内になっているので
いつでも利用が可能だ
きっとマスターは今日もこちらで自分のためにコーヒーでも淹れてのんびり過ごしているの
だろうな
ツリーテラスの真下まできてもう一度見上げてみる
下からでも看板が見えるな
白面亭と書かれている
名前の由来は白面金毛九尾の狐からとったらしい
なぜ九尾なのかと以前きいたら床が九角形なので作っているときに
それが九本の尾っぽにみえたからとかいっていたな
建物の下をすぎるとツリーハウスに上がるための階段が見えてくる
その階段を一段ずつ慎重にあがり扉に手をかけた
ツリーカフェの店内に入ると相変わらず暇そうにするマスターの顔があった
どうやら駐車場から車を降りたのをみて私が来たのに気づいたらしい
すでに鍋に火をいれてお湯を沸かし始めているようだった
私と彼とは中学、高校と同級でありよく一緒に遊んだもんだ
たわいもない話をしながらコーヒーを淹れてもらう
マスターはこんな山奥の辺鄙な場所でツリーカフェなどを開いているがいたって普通の人間
だ
特に目に留まるような特徴もない
カウンターに乗っていたコーヒーミルを手元に引き寄せるとそこに豆を入れ手動でクルグル
と挽きはじめた
全て挽き終わった豆をフィルターに入れ
鍋で沸騰させた湯をポットに入れ替えておもむろに手を前方へ伸ばした
どうやら目の前に吊ってある不思議なリーフの中にある砂時計をひっくり返したみたいだ
なるほどアレで時間を計っているのか
インテリア自体は意味不明な不思議なものが多いがちゃんと実用的なものもあるのだな
そしてのの字を描くようにお湯を注ぎはじめた
その途端にあの独特の香りがせまい店内に漂い始めた
やっぱりちゃんと豆を挽いて淹れるコーヒーはこの瞬間がたまらない
まるで現世とは切り離された時間がゆっくりと流れる異空間のようになる錯覚を味わった
目の前にある手押しポンプの取っ手の部分にぶら下がっているリースの中央の椅子の上に
のった砂時計が
全部落ちるタイミングでドリップをよけてカップに出来上がりのコーヒーを注ぎ始めた
そしてそれをカウンターの上にのせてくれた
どうやら完成したようだ
砂糖などもカウンターに乗っていたが私はブラックしか飲まないのでこのままいただこう
そんなことを考えていたらマスターがおもむろに何かをし始めた
三角形の不思議な台座をのせその中にランプの様な物を入れて火を灯し始めた
その光景が不思議だったので様子をうかがっているとそのうえに三脚の様な物をのせはじめ
た
そしてどこからか丸フラスコを取り出すとカップに注ぎきれなかった残りをフラスコに移し
替えて
三脚にそっと乗せた
なるほどこれなら温かいものをいつでもおかわりできるのか
それでは淹れたてのコーヒーをいただくとしよう
店内にいるとあまり木の上にいる実感はないけどやはり窓から見える風景は
普通のカフェとは違うか
それにドアを開けてみたらやはりここが木の上にあるカフェなんだなぁっと思った
高い位置からコーヒーを飲みながら見下ろす景色はそうそう味わえない
マスターが洋楽を流しながら自分もコーヒーを飲み始めた
私は
「あいかわらず暇な店だな」っと笑いながら言ったら
あいつも
ニヤリとわらって
「そうだな」っと返した
ここは山奥にひっそりと佇む木の上にあるカフェ
白面亭
今日も現世とは切り離された不思議な時間の流れるくつろぎの空間
たまにはのんびり過ごしてみませんか
注意:この物語はフィクションであり実際にこのような場所は存在していません
挿絵はイメージ画像です
訪れたい方は夢の中で訪問しましょう